
海外赴任が決まった人からの質問で、ここ数年で一気に増えたのがこれです。「NISAで積み立てているんですが、出国したらどうなりますか?」
無理もありません。新NISAが始まって、積立投資はもう当たり前の習慣になりました。その一方で、NISAもiDeCoも「日本の居住者」を前提に作られた制度です。海外赴任で非居住者になると、それぞれ扱いが大きく変わります。
先に結論を対比で書きます(2026年7月時点)。
- NISA: 出国すると原則ストップ。ただし転勤などやむを得ない事由なら「継続適用届出書」で最長5年間、保有だけは続けられる。継続中の新規買付はできない
- iDeCo: 続けられる。2022年5月の改正で、国民年金に任意加入すれば海外からも掛金を出し続けられるようになった。任意加入しない場合も「運用指図者」として運用は継続できる
僕はタイに25年住んでいて、駐在員の方から資産運用の相談ごとをよく聞きます。この記事では、NISAとiDeCoが出国でどうなるかを制度の一次情報ベースで整理して、最後にタイ駐在員ならではの視点(タイ側の節税投資との使い分け)まで踏み込みます。
目次
1. NISAは出国するとどうなるか
NISA口座は、日本の居住者であることが利用の前提です。海外赴任などで非居住者になると、原則としてNISA口座での取引はできなくなります。
救済措置はあります。2019年度の税制改正で導入された「継続適用届出書」の仕組みです(2026年7月時点)。
- 出国前に、NISA口座のある金融機関へ「非課税口座継続適用届出書」を提出する
- 対象は勤務先の転任命令などやむを得ない事由による出国だけ。自己都合の海外移住や留学は対象外
- 提出すると、「帰国して帰国届出書を出す」か「提出から5年後の12月31日」のいずれか早い方まで、NISA口座の資産を非課税のまま保有し続けられる
- ただし継続期間中の新規買付はできない。積立設定は出国中いったん停止になる
つまり「5年以内に帰る転勤なら、持っているものは非課税のまま守れる。ただし積み立ての追加はできない」というのが制度の骨格です。
では、届出をせずに出国したらどうなるか。NISA口座は非課税措置の対象から外れ、資産は出国時の時価で課税口座(一般口座)に払い出されます。含み益に対してその場で課税されるわけではありませんが、非課税の器からは出てしまい、以後の値上がりと分配金は課税対象になります。継続適用届出書を出していても、5年以内に帰国届出書を出さなければ同じ扱いです。
なお、2024年から始まった新NISAでも、この出国時の枠組みは同じです。
2. 証券会社ごとの対応差——ここがいちばんの落とし穴
制度として「5年ルール」があっても、それを使えるかどうかは金融機関しだいです。継続適用届出書に対応していない金融機関では、やむを得ない転勤でも出国=NISA口座廃止になります。
2026年7月時点で公式に確認できた対応状況はこうです。
- 楽天証券: 対応。2024年10月の拡充で、投資信託・米国株式などもNISA口座のまま継続保有できるようになりました
- SBI証券: 対応。2024年10月と2025年6月の2段階で継続保有できる商品の範囲が広がっています
- マネックス証券: 2025年2月から対応開始。海外転勤とその帯同配偶者が対象で、出国日の11営業日前までの連絡が条件です
- 野村證券・大和証券: 対応。やむを得ない事情の場合に限り最長5年間保有可能
- 三菱UFJ銀行(銀行系NISA): 対応。出国日の前日までの届出が必須で、国外転出時課税の対象者(後述の1億円ライン)は除きます
数年前まで「ネット証券はNISAの出国対応をしていない」と言われていたのが、2024〜2025年で主要どころが一気に対応した格好です。ただし対応開始時期も条件も各社バラバラなので、赴任が決まったら、まず自分の証券会社の公式サイトで「出国」「海外赴任」のページを確認する。これが最初の一歩です。
証券口座そのもの(特定口座・常任代理人など)の出国手続きは、こちらの記事にまとめています。
→ 海外赴任中、日本の銀行口座・証券口座はどうする?【2026年版】
3. iDeCoは続けられる——2022年5月改正のポイント
iDeCoはNISAより柔軟です。2022年5月の制度改正で、海外に住む日本人も、国民年金に任意加入していればiDeCoの掛金を出し続けられるようになりました(iDeCo公式・厚生労働省の公表資料で確認)。
整理するとこうなります。
- 国民年金に任意加入する場合: iDeCoの加入者のまま、海外からも掛金を拠出できる。老後の年金額も増やせて、iDeCoの所得控除は帰国後の所得に対して再び効いてくる
- 任意加入しない場合: iDeCoの加入者資格を失い、「運用指図者」になる。新しい掛金は出せないが、それまでの資産の運用(商品の入れ替えなど)は続けられる
注意点は2つ。まず、運用指図者になっても口座管理手数料は資産から引かれ続けます(金額は金融機関で異なるので、iDeCo公式サイトの手数料一覧で確認を)。放置ではなく「拠出は止まっているが口座は生きている」状態だと理解しておいてください。
もう一つは、「海外に行くからiDeCoを解約してお金を受け取る」はほぼできないことです。脱退一時金の要件は非常に厳しく、皮肉なことに2022年の改正で海外居住者もiDeCoに「加入できる人」になったため、「加入できない者であること」という脱退要件を満たせなくなりました。海外赴任者の現実的な選択肢は、任意加入して続けるか、運用指図者として60歳まで運用を続けるか、の二択です。
会社の企業型DC(企業型確定拠出年金)に入っている方は、赴任の形態(日本の会社に在籍したままか、現地法人へ転籍か)で扱いが変わります。ここは会社の制度設計しだいの部分が大きいので、勤務先のDC担当部署と運営管理機関に確認してください。
4. 国外転出時課税(出国税)——1億円ラインの人だけ
まとまった資産をお持ちの方は、もう一つ知っておくべき制度があります。国外転出時課税、通称「出国税」です(国税庁タックスアンサーNo.1478)。
対象になるのは、次の両方に当てはまる人です。
- 出国時に、株式や投資信託などの対象資産の合計が1億円以上
- 出国前10年以内に、日本に住んでいた期間が合計5年超
対象になると、出国時に資産を「売ったものとみなして」含み益に課税されます。実際には売っていなくても、です。ここで見落としやすいのは、1億円の判定にNISA口座内の資産も含まれること。NISAだから関係ない、とはなりません。
ただし、納税管理人を届け出て担保を提供すれば、納税を5年(延長で最長10年)猶予できる仕組みがあります。5年以内に帰国して資産を持ち続けていれば、課税をなかったことにする取り消しもできます。このあたりは金額も手続きも大きい話なので、該当しそうな方は必ず税理士に相談してください。
なお、iDeCoの資産は年金制度上の受給権であり、通常は出国税の対象資産(有価証券等)には該当しないとされています。ここは公式の明文が見当たらない論点なので、資産規模の大きい方は個別確認を。
5. 帰国したら——再開の手続き
帰国後の手続きはシンプルです。
- NISA: 金融機関に「帰国届出書」を提出。これで新規買付を含むNISA口座の利用が再開できます。継続適用届出書の期限(5年後の年末)より前に、忘れずに
- iDeCo: 運用指図者になっていた方は、運営管理機関に加入者資格の再取得を届け出れば、掛金の拠出を再開できます
帰国前後はNISA・iDeCo以外にも手続きが集中します。全体の段取りはこちらの記事で。
→ タイから日本へ本帰国する前にやることリスト【お金編・2026年版】
6. タイ駐在員の実務整理——「日本の枠が止まる分、タイの枠を使う」
最後に、タイ駐在の方に向けた実務の視点です。
出国でNISAの積立が止まると、「毎月の投資習慣が途切れてしまう」ことを気にする方が多い。でもタイで働いて所得がある方には、タイ側にも税制優遇つきの積立投資の枠があります。RMF(退職投資信託)やThai ESGといった、タイの所得税の控除対象になる投資制度です。
構図としてはこうなります。
- 日本のNISA: 出国で新規買付停止(保有は5年ルールで維持)
- 日本のiDeCo: 任意加入すれば継続可。しない場合は運用指図者
- タイのRMF等: タイで働いて納税している間だけ使える控除枠。駐在期間はむしろこちらの出番
「日本の枠が止まっている間、タイの枠で積み立てて節税する。本帰国が見えたらタイ側の出口を設計する」——これがタイ駐在員のいちばん素直な型だと僕は考えています。タイ側の制度はこちらの記事にまとめています。
→ タイの個人所得税を節税する方法と控除一覧【2026年版】
まとめ
- NISAは出国で原則ストップ。転勤などやむを得ない事由なら「継続適用届出書」で最長5年保有継続、ただし新規買付は不可
- 届出せずに出国すると、時価で課税口座へ払い出し。5年ルールを使えるかは金融機関の対応しだい(2024〜2025年に主要各社が対応)
- iDeCoは2022年5月改正で「続けられる制度」になった。国民年金に任意加入して拠出継続か、運用指図者として運用のみ継続か
- 資産1億円以上の方は出国税の確認を(NISA内の資産も判定に含む)
- タイ駐在なら、止まった日本の枠の代わりにタイ側のRMF等の控除枠を使うのが素直な型
タイ在住のお金の話の全体像は、こちらの記事から辿れます。
→ タイ在住日本人のお金の教科書【2026年版】赴任から本帰国までの全体マップ
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※この記事は2026年7月時点の情報です。NISA・iDeCoの制度、各金融機関の対応状況は変わることがあります。実際の手続きは各社公式サイトと、必要に応じて税理士等の専門家にご確認ください。


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