
タイで長く働いてきた方から、本帰国が視野に入ってくるタイミングで「LTFやRMFはどう畳めばいいですか」というご相談を受けます。年金一時金の申請サポートの流れで話が広がっていくことも多いです。
LTFは2019年末に新規購入が終わり、SSFも2024年12月末で新規控除が終わりました。いま現役で買えるのはRMFとThai ESG/Thai ESGXだけです。それでも過去に積み上げてきた残高は、多くの方が数百万バーツ単位で保有しています。この出口をどう設計するかが、本帰国前後の税務でいちばん差がつくところです。
先に結論を書きます。基本方針は「タイ在住のうちに条件を満たして解約し、タイ側で非課税のまま円転して帰る」。帰国後に持ち越すと、タイ側は非課税でも日本側で申告分離課税20.315%が乗るため、含み益に薄い膜のように税負担が張り付きます。この記事では、その理由と、制度別・運用会社別の実務、そして帰国後まで持ち越す場合の注意点を、時系列で並べていきます。
目次
1. 制度別の現在地——終わった制度・続く制度
まず2026年時点の各制度の位置づけを整理します。
LTF(Long Term Equity Fund)
2019年12月末で新規購入・控除は終了。既存の保有分はホールド条件を満たせば売却可能です。ホールドは2016年以降購入分は7暦年、それ以前は5暦年。暦年カウントなので、購入年と売却年をまたぐ計算になります。
多くの方は2024年時点で最終ロットが解禁済みで、2025年以降はThai ESGXへのスイッチ救済(含み益・含み損を清算せず等価でESGXに移し替え、控除最大50万THBを2025〜29年で分割適用)か、通常の売却か、の二択でした。ここから先はもう「新規を止めた出口フェーズ」です。
SSF(Super Savings Fund)
2024年12月末で新規控除終了。既存分は保有継続できます。ホールドは初回買付から日から日で満10年。RMFのような「55歳+」の別ロジックはなく、10年を経過した順に解禁されます。
2024年までに買った分は、購入年に応じて2033〜2034年頃まで拘束が残る計算です。SSFXのような遡及救済もありません。ゆっくり満期を待つフェーズです。
RMF(Retirement Mutual Fund)
2026年時点でも継続中で、税制優遇投信の主役です。控除は課税所得の30%かつ50万THBが上限で、PVD(Provident Fund)や年金保険料控除等と合算で50万THB枠に収まります。
解禁条件は次の3つで、後の§2で詳しく整理します。
- 満55歳の誕生日を過ぎていること
- 初回買付から日から日で満5年を過ぎていること
- 継続拠出(原則毎年、1年スキップは可、2年連続の未購入は失格)
RMFの代表的な銘柄については K-US500X-A(A)——タイのカシコン銀行で買える米国株投資信託 にKAsset系の例を書いています。
Thai ESG/Thai ESGX
Thai ESGは2024〜2026年時点で控除30万THB・ホールド5年。2027年以降は10万THB・8年に縮小される予定です(SCBAMの2025年時点告知ベース。詳細は公開直前に歳入局のアナウンスをご確認ください)。
Thai ESGX は2025年時限で新設された枠で、新規購入30万THB+LTFスイッチ最大50万THB(2025〜29年で分割適用)。2026年以降は通常のThai ESGへ統合される見込みです。
日本人ユーザーにとってのThai ESGの位置づけは、§8で「勧めない理由」として整理します。
2. RMF解禁の3条件と「継続拠出」の解釈
RMFの出口でいちばん多い誤解が、55歳の誕生日で解禁だと思い込むケースです。実際は3条件の全てを満たす必要があります。
「日から日」で数える5年
5年カウントは暦年ではなく「日から日(วันชนวัน)」です。2020年12月28日に初回買付なら、5年目の到来は2025年12月28日以降。年末駆け込み買付を最初の年にした方は、55歳の誕生日が来ていても5年ルールで未達になるケースがあるので、初回買付日を先に確認してください。
さらに、55歳を過ぎてから追加購入したロットは、その日から新たに5年が起算されます。「55歳を過ぎたから全部売れる」わけではなく、あくまでロット単位で日から日で5年です。
継続拠出の許容範囲
毎年または隔年で買付する、というのが基本ラインです。1年スキップは可、2年連続の未購入は失格で、失格すると過去に受けた控除の返還と加算税が発生します。会社を辞めて所得がゼロになった年でも、少額の最低買付でつなぐケースが多いです(運用会社ごとに最低金額が違うので、退職前にKAssetやSCBAMの最低単位を確認しておくと安心です)。
電子開示同意(Tax Consent)
2022年10月以降、運用会社経由の電子開示同意(income tax exemption request)を毎年出していることが控除・非課税適用の前提になりました。K PLUSやSCB Easy Investの画面で「同意(ยินยอม)」のボタンを押していない年があると、条件充足でも非課税扱いにならず、過去年分の控除返還を求められるリスクがあります。退職前に、過去年分の同意状況をアプリの「税務関連書類」欄で必ず確認してください。
3. なぜタイ在住のうちに解約するのが有利か
出口戦略の核心はここです。タイの非課税規定はタイ国内法上のものであり、日本の居住者になった瞬間から効力が及ばなくなります。
比較すると次のようになります。
- タイ在住中に条件充足で解約:タイ側は非課税、日本側は非居住者なので課税なし → もっとも軽い
- 本帰国後(日本居住者)に解約:タイ側は非課税でも、日本側で全世界所得課税が及ぶ → 譲渡益に申告分離課税20.315%(所得税15.315%+住民税5%)が乗る
含み益が大きい方ほど、この差が実額で効いてきます。仮に含み益が300万THB(約1,300万円相当)ある方が帰国後に解約すれば、日本側で約260万円の税負担が発生する計算です。帰国日を境に、含み益に薄い膜のように日本の20.315%が張り付く——このイメージで捉えると判断しやすいと思います。
タイ在住中に解約する場合、条件充足であればタイ側は売却益が非課税で、源泉もかかりません。ただし「非課税=申告不要」ではない点は現地の実務家が繰り返し注意しているところで、原則としてPND90/91(タイの確定申告書)に売却益を記載する運用です。運用会社側から歳入局へ電子的に情報が送られるため、申告書に反映される前提です。
4. 早期解約ペナルティと控除返還
条件を満たさずに売却したときの扱いも押さえておきます。RMFで整理しますが、LTF・SSFも構造は似ています。
RMFで解禁前に売った場合
- 保有5年未満で解約:過去に受けた税還付(最大10年分・保存書類の範囲)を全額返還+還付月から返還月までの月数×1.5%の加算税(surcharge)。売却益は40(8)所得として当年の課税所得に算入され、累進税率で課税
- 保有5年以上だが55歳前に解約:直近5暦年分の税還付を返還(翌年3月までの確定申告で処理)。ただしキャピタルゲイン自体は非課税扱い
- 死亡・障害の例外:保有期間・年齢の要件に関わらずペナルティなし
LTF・SSFで期間未達で売った場合
LTFは7暦年(旧5暦年)、SSFは10暦年の未達で、対象口分の税控除返還+税額に対し月1.5%の加算税、売却益はFIFOで年間課税所得に算入されます。SSFXのような遡及救済はありません。
早期解約は「タイの累進課税+日本の申告分離」で二重に効くので、原則としては条件充足を待ってから売るのが定石です。どうしても資金化が必要な場合は、控除返還額と加算税を運用会社に試算してもらい、含み益と比較したうえで判断します。
5. 運用会社別のオンライン解約経路
実際に売る手段の話です。主要運用会社のオンライン解約経路と、帰国後の可用性を並べます。
- Kasikorn Asset Management(KAsset):K-USA RMF、K-CHINA RMF、K-GLOBEQ RMF、K-USXNDQ-RMF等。K PLUSアプリ内のWealth Plus、K-Cyber Invest、K-My Funds
- SCB Asset Management(SCBAM):SCBRMS50、SCBRMGHC、SCBRMGOLDH等。SCB Easy Invest、SCB EASYアプリ
- Krungthai Asset Management(KTAM):KT-Wxxx-RMF、KT-BOND-RMF等。Krungthai NEXT/KTAM Smart Trade
- Bualuang Asset Management:B-INNOTECHRMF、B-USPASSIVERMF、B-CHINAARMF、B-VIETNAMRMF等。Bualuang iBanking、Bualuang Fund App
- UOB Asset Management:UOB TMRW/UOB Asset App
いずれもタイSIMのSMS OTPが解約請求の生命線です。帰国後にタイSIMを維持していない状態でオンライン解約しようとすると、OTPが届かず詰みます。この帰国後の運用ハードルは、本帰国後のタイ銀行口座の話にまとめてあります。
→ タイの銀行口座を維持したまま日本へ本帰国する方法【2026年版】
実務メモ
- 解約請求は営業日ベース。株式型RMFはT+4営業日、債券型はT+2営業日で入金が一般的(銘柄により異なる)
- 過去5年分の受渡明細(購入・売却)をPDFで保存。K PLUSは「Statement」、SCBは「My Portfolio」→「Transaction History」から取得
- 解約前に運用会社の税務関連書類欄で電子開示同意(Tax Consent)が全年分入っているかを確認
- 非居住者からの解約請求書には、大使館認証やパスポート原本コピーを求める運用会社もあります。居住者ステータスのうちに処理するほうが手続きが軽い
6. 円転のタイミング——為替と生活防衛
条件充足で解約が済むと、次はTHBから円への換算をどう回すかの話になります。
一括か分割か
一括解約・一括円転は、口座整理が楽で、為替の有利な日を狙えるメリットがあります。ただし相場悪化時に全額被弾するリスクがあります。
分割は、為替と株価の平均化ができる一方で、帰国と重なると非居住者化してから売却する回が出て手続きが重くなる点に注意が必要です。おすすめの中間案は「帰国日から逆算して6か月以内に完了する分割売却」で、四半期に1回のペースで3〜4回に分けると、為替の平均化と口座整理を両立できます。
送金の目安
一括で数百万バーツをタイ口座に滞留させると、送金や維持で余計な手間が増えます。SCB/KバンクからのTT送金は1回あたりUSD 50,000相当で書類要件が変わるラインが目安です(各行の最新運用は事前確認を)。
送金経路の選択肢や、日本発Wise→タイ銀行送金は従来どおり使えることについては、④記事に整理しています。
→ タイの銀行口座を維持したまま日本へ本帰国する方法【2026年版】
為替に振り回されないコツ
出口設計で為替を完璧に当てにいくのはおすすめしません。老後の生活防衛としては「タイ資産を予定通り円化する」ことがまず先で、レートの上下は分散で吸収する、という順番のほうが精神的にもラクです。
7. 日本側の税務——帰国後まで持ち越す場合
本帰国後にタイ籍投信を保有し続けたり、帰国後に売却した場合の日本側の扱いを整理します。
タイ籍投信は「一般口座 外国投資信託」扱い
日本の証券会社を通していないので、特定口座には入りません。売却益は「株式等以外の投資信託」等の譲渡所得として、公募株式投信であれば申告分離課税20.315%(所得税15.315%+住民税5%)で確定申告します。
課税所得の計算は、取得価額(購入時のTHBを購入日TTMで円換算した金額)と売却金額(売却日TTMで円換算した金額)の差額が譲渡益。為替差益部分も譲渡益に含まれる、外貨投信の一体課税です。
書類が命
日本側で申告するには、購入時の受渡計算書、購入日のTTM/TTS、売却時の受渡計算書、送金時の為替レート、これらを全て保存する必要があります。帰国後に運用会社の日本語窓口はありませんので、K PLUSやSCB Easy Investのアプリ内取引履歴は帰国前にスクリーンショットまたはPDFで残しておいてください。
外国税額控除
タイで源泉徴収された税額があれば、日本の確定申告で外国税額控除の対象になります(日タイ租税条約に基づく)。ただしRMF・Thai ESG条件充足解約はタイ側で非課税のため、控除できる外国税がゼロで、日本の20.315%がフルで乗ります。
SSF/LTFの早期解約でタイ側の累進課税を食らった場合は、日本側の申告で外国税額控除を効かせられますが、その前提となるタイでの申告済み証明(PND90/領収書)が必要です。
相続時の扱い
保有中に亡くなった場合、タイ側は保有期間・年齢の要件が免除でペナルティなし。相続人が受け継いで解約可能です。日本側では相続税評価の対象で、相続開始日の外貨評価をTTBで円換算します。相続後に相続人が売却すれば、日本の一般口座で申告分離課税20.315%。タイ資産の相続実務全般は、こちらに詳しくまとめています。
→ タイに資産を残して亡くなったら、家族はどう受け取るか【日本人向け・2026年版】
8. Thai ESGを推奨しない理由——列挙
Thai ESGについては、日本人ユーザーに積極的に勧めない立場でこの記事は書いています。断定的に「やめておけ」というより、次のような理由が積み重なる、という感じで受け止めていただければと思います。
- 投資対象がタイのESG基準を満たす株・債券に絞られるため、分散が悪くなりやすい。長期のリターンをグローバル分散で取りにいく戦略との相性は良くありません
- タイ株の長期パフォーマンスは、グローバル株に対して劣後してきた期間が長い。「節税枠が魅力的でも、その分の機会損失で相殺してしまう」ケースが起こりえます
- 2027年以降は控除枠が30万→10万THB、ホールドが5年→8年に縮小予定と告知されており、節税インパクト自体も先細りしていく方向です
- 本帰国を視野に入れた方が持ち越した場合、日本側の申告分離課税20.315%が乗り、タイ側の非課税優遇がリターンに寄与しません
- RMFの50万THB枠を先に使い切っていない駐在員であれば、まずRMFで海外株型(K-USA、K-USXNDQ等)に振り分けるほうが、同じ節税でグローバル分散が効きます
例外的に検討する価値があるとすれば、Thai ESGXのLTFスイッチ救済くらいです。LTFで含み損を抱えていて、まだ売る気にならない2025年組の方が、50万THBを2025〜29年で分割控除しつつ含み損を先送りしたい、というケース。ここは個別事情によるので、税理士とご相談ください。
RMF・LTF・SSFの入口側(控除メニューの基本)は、以前まとめた所得税の記事にあります。合わせてお読みください。
まとめ
長くなったので要点を整理します。
- LTFは2019年末で新規終了、SSFは2024年12月末で新規終了、RMFとThai ESGが継続。入口は絞られ、出口の設計が主戦場になっている
- RMFの解禁は55歳+日から日で満5年+継続拠出の3条件を全て満たしたロットから。55歳の誕生日だけでは足りない
- 基本方針はタイ在住のうちに条件充足で解約→タイ側非課税で受取→円転して帰国。帰国後解約は日本側で申告分離課税20.315%が乗る
- 早期解約は控除返還+月1.5%加算税が重い。原則は条件充足を待つ
- オンライン解約はタイSIMのSMS OTPが生命線。帰国後の解約は手続きコストが跳ね上がる
- 円転は帰国日から逆算して6か月以内で3〜4回の分割を目安に、為替1点張りを避ける
- Thai ESGは日本人ユーザーには積極的に勧めにくい。分散・機会損失・2027年の縮小予定・帰国後の課税、といった理由が重なる
年金一時金の申請時期とRMF解禁が近い方は、両方の受取タイミングを合わせて設計するとスッキリします。年金一時金の受取口座(タイ/日本)や給付期間の話は、こちらの記事に整理しています。
→ タイの老齢年金 日本人も55歳からもらえます【完全解説】
本帰国全体のお金の流れは、①ハブ記事にチェックリスト形式でまとめました。合わせてご覧ください。
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出口戦略を考えるうえで、退職後のアセットアロケーション自体を見直したい方には、以前書いた記事も参考になるかと思います。
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※この記事は2026年7月時点の情報です。タイの税制・運用会社の運用ルール・日本側の税務は変わることがあります。個別の判断は必ず税理士・ファイナンシャルプランナー等の専門家にご確認ください。


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