タイ退職時、プロビデントファンドはすぐ受け取る?本帰国前に知る4つの選択肢

タイ退職時、プロビデントファンドはすぐ受け取る?本帰国前に知る4つの選択肢

タイで年金一時金のサポートをしていると、退職を控えた方から「会社で積み立てているプロビデントファンドはどうすればいいですか」という質問をよくいただきます。毎月の給与明細には載っているのに、中身は会社任せで、退職が決まって初めて「これ、どう受け取るのが正解?」と調べ始める。そういう方がほとんどです。

先に結論を書きます。プロビデントファンド(PVD)は「満55歳・加入5年以上」で受け取ると全額非課税です。この条件を満たしているなら、素直に受け取ってから帰国するのが基本線。満たしていないなら、「すぐ受け取って税金を払う」以外に、据え置き・移管という時間稼ぎの選択肢があります。退職時の手続きひとつで手取りが数十万バーツ変わることもあるので、この記事で4つの選択肢と税金の仕組みを整理しておきます。

1. プロビデントファンドとは——会社と自分で積む退職金

プロビデントファンド(กองทุนสำรองเลี้ยงชีพ/PVD)は、タイの企業が任意で設ける積立型の退職金制度です。1987年のプロビデントファンド法(Provident Fund Act B.E. 2530)に基づく制度で、タイSEC(証券取引委員会)の監督のもと、ライセンスを持つ資産運用会社が運用しています。

仕組みはシンプルで、自分の給与から2〜15%を拠出し、会社も規約で決めた率を上乗せして拠出します。実務では3〜5%程度の設定が多いようです。積み立てたお金は投資信託のように運用され、「本人拠出分」「会社拠出分」「それぞれの運用益」の4つの箱に分かれて記録されます。

ひとつ注意したいのは、会社拠出分には「権利確定(vesting)」のルールがあることです。たとえば「加入3年未満で辞めたら会社拠出分はゼロ、5年以上なら100%」のような段階設定が、ファンドごとの規約で決まっています。転職のタイミングを考えるとき、この規約は先に確認しておく価値があります。自分のファンドの規約は、会社の総務かファンドの運営会社に聞けば教えてもらえます。

2. 退職時の4つの選択肢

退職・転職が決まったとき、PVDの残高には次の4つの道があります。

選択肢 概要 向いている人
① 一時金で受け取る 脱退後に一括で振り込まれる。何もしなければこれ 非課税条件(後述)を満たしている人
② 旧ファンドに据え置く คงเงิน(コングン)。年500バーツの手数料で運用を継続 55歳まであと少しの人、次の職場が未定の人
③ 新しい勤務先のPVDへ移管 転職先にPVDがあれば残高ごと引き継げる。加入期間も通算 タイ国内で転職する人
④ RMF for PVDへ移管 PVD移管専用の投資信託(RMF)へ移す。加入期間は通算される 転職先にPVDがない人、個人で運用を続けたい人

それぞれ少し補足します。

① 一時金で受け取る

特に手続きをしなければ、脱退後に一括で支払われます(運営会社の案内では脱退から30日以内の支払いとされています)。税金の扱いは次の章のとおりで、条件を満たしていれば非課税、満たしていなければ課税。受け取るタイミングを選べるのがこの制度の面白いところなので、条件を満たしていない人は②〜④を検討してからでも遅くありません。

② 旧ファンドに据え置く(คงเงิน)

退職後も残高をそのままファンドに置いて運用を続けられる制度です。手数料は年500バーツ。申し出の期限は一般に「退職日から90日以上」の期間が規約で確保されていると案内されていますが、具体的な日数はファンド規約によるので、退職前に運営会社へ確認してください。

据え置きの何がうれしいかというと、課税されるのは実際に引き出した年で、非課税かどうかの判定もその時点の年齢・加入期間で行われる、と案内されている点です。つまり53歳で退職しても、据え置いて55歳を過ぎてから引き出せば非課税ラインに乗せられる可能性があります。このあたりの判定は個別性が高いので、実行前に運営会社に「自分の場合はどうなるか」を必ず確認してください。

③ 新しい勤務先のPVDへ移管

タイ国内で転職し、転職先にもPVDがあるなら、残高を移して積立を続けるのが素直です。加入期間も通算されるので、非課税条件の「5年」を途切れさせずに済みます。移管手数料はかからないとされています。

④ RMF for PVDへ移管

転職先にPVDがない、あるいはタイでの勤務を終える場合の選択肢です。PVDからの移管専用に設計されたRMF(リタイアメント・ミューチュアル・ファンド)へ残高を移します。ポイントは3つ。

  • PVDの加入期間とRMF for PVDの保有期間は通算される。たとえばPVD加入10年・52歳で移管したら、あと3年保有して55歳を迎えれば非課税条件を満たす計算です
  • 移管先は1社の運用会社にまとめる必要があり、分割はできない。また一度移すとPVDへは戻せません
  • 解禁条件(55歳以上かつ通算5年以上)を満たさずに解約すると、部分解約はできず全額一括のみ、かつ課税対象になります

移管手数料は無料で、SCBAMやクルンシィ・アセットなど主要な運用会社が取り扱いを案内しています。通常のRMFの出口の考え方は タイのRMF/SSF/LTF出口戦略 に詳しく書いたので、そちらもどうぞ。

3. 税金の壁——「満55歳・加入5年」で全額非課税

PVDの税務でいちばん大事な数字がこれです。満55歳以上、かつファンド加入期間が継続5年以上で受け取る給付金は、本人拠出分も会社拠出分も運用益も、全額が所得税非課税になります(タイ歳入局長官告示第188号ほか関連通達。歳入局の原文はこちら)。

条件を満たさずに受け取る場合は、こう分かれます。

  • 自分が拠出した元本:非課税(もともと課税後の給与から積んだお金なので)
  • 会社拠出分の元本と、運用益(本人分・会社分とも):課税対象

長く勤めた人ほど会社拠出分と運用益が膨らんでいるので、課税対象額もそれなりの金額になります。だからこそ、受け取るタイミングを設計する価値があるわけです。

4. 条件未達でも「分離計算」で税負担は軽くできる

55歳に届かなくても、加入期間が5年以上あれば、PVDの課税対象額を給与など他の所得と合算せず、別枠で分離計算することを選べます。計算の仕組みはこうです。

  • 控除①:7,000バーツ × 勤続(加入)年数
  • 控除②:(受取額 − 控除①)の50%
  • 残った金額に累進税率を適用

よく紹介されている例だと、課税対象額60万バーツ・勤続20年の場合、控除①が14万バーツ、控除②が23万バーツで、課税所得は23万バーツまで圧縮されます。年収の高い駐在員の方ほど、給与と合算するより分離計算のほうが有利になりやすい構造です。

なお、ここでの計算はあくまで仕組みの説明です。実際の税額は個々の条件で変わるので、金額の大きい方は申告前にタイの税理士か会計事務所に確認することをおすすめします。

5. 確定申告の実務——源泉徴収票を必ずもらう

退職時には、ファンド(または会社経由)から源泉徴収証明書(50 ทวิ/ゴーシップ・タウィ)が発行されます。これが確定申告の必須書類なので、退職のバタバタで受け取り忘れないようにしてください。

タイの確定申告(PND90/91)では、加入5年以上の人は前章の分離計算を申告書の別紙で選択できます。タイの確定申告の基本的な流れは タイの確定申告のやり方 にまとめています。

6. 本帰国する人の段取り

本帰国が決まっている方向けに、僕が確認をおすすめしている順番はこうです。

  • 非課税条件を満たしている → タイにいるうちに受け取ってから帰る。受け取りはタイの銀行口座への振込なので、口座があるうちに完結させるのが確実です
  • 条件を満たしていない → 据え置き(またはRMF for PVD)で55歳到達を待つ選択肢を検討。ただし帰国後の手続き(住所変更・引き出し時の振込先・本人確認)がどうなるかは運営会社によって実務が違うので、帰国前に必ず運営会社へ確認してください

帰国前に会社の総務と運営会社に聞いておきたい項目を挙げておきます。

  • 自分のファンドの規約上、会社拠出分の権利確定率はいま何%か
  • 据え置きを選ぶ場合の申請期限と、日本からの引き出し手続きの方法
  • 引き出し時の振込先にタイの銀行口座が必要か(必要なら口座を残して帰る)
  • 源泉徴収証明書(50 ทวิ)はいつ・どこから受け取れるか

タイの銀行口座を維持したまま帰国する方法は タイの銀行口座を維持したまま本帰国する話 に、帰国前後のお金の手続き全体は 本帰国のお金のやることリスト にまとめています。

ひとつ注意点。日本の居住者になってから受け取った場合の日本側の課税は、退職所得なのか一時所得なのか、ケースバイケースで判断が分かれる領域です。ここは僕も断定できないので、金額が大きい方は帰国後の申告前に日本の税理士に相談してください。

7. まとめ——ケース別の考え方

  • タイ国内で転職する人:転職先のPVDへ移管して加入期間を通算。転職先にPVDがなければ据え置きかRMF for PVD
  • 55歳以上・加入5年以上で本帰国する人:タイにいるうちに非課税で受け取ってから帰る
  • 55歳未満で本帰国する人:すぐ受け取るなら分離計算で税負担を軽く。急がないなら据え置き・RMF for PVDで55歳を待つ手も(帰国後の実務確認を忘れずに)

なお、退職時に確認したいお金はPVDだけではありません。法定の解雇補償金(実は定年退職も支払い対象です)や未消化年休の買い取りなど、もらい忘れやすいお金の全体像は タイ退職時にもらえるお金一覧 にまとめています。

最後にひとつ。PVDは会社の退職金制度ですが、これとは別に、タイで働いた人には社会保険(SSO)の老齢年金・一時金を受け取る権利があります。こちらは会社を通さずタイの社会保険事務所に自分で申請する制度で、存在自体を知らずに帰国してしまう方が本当に多いです。詳しくは タイの年金一時金の受け取り方 にまとめているので、退職前の方はあわせて確認してみてください。

※この記事は2026年7月時点の情報です。制度・税務の条件は変わることがあるので、実行前に運営会社・会社の総務・専門家への確認をおすすめします。

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