2017年12月に初めて発表されたミシュラン・ガイド・バンコク。
そのミシュラン・ガイドで、名誉ある1つ星レストランに選ばれたタイ食堂の店主が、星を返上したがっていると話題になっている。
なぜ、店主は星を返上したがっているのだろうか?
2017年12月に、ミシュラン・ガイド・バンコクが発表された。
ミシュラン・ガイドについては改めて説明する必要はないだろう。世界各国の有名レストランを紹介したガイドブックである。
バンコク版については、観光促進を目的に、タイ国政府観光庁がフランスのミシュラン社に資金を提供し、作成してもらったもの。
他国と同様に、複数の覆面調査員が取材・評価して作成されている。
ミシュラン・ガイド・バンコクでは、次の17件のレストランが、栄誉あるミシュランスター☆を獲得している。
- 3つ星:該当なし
- 2つ星:3件
- 1つ星:14件
ミシュランスターを獲得した店は、有名ホテルのレストランだったり、有名シェフのいる店だったりして、意外性はなかった。
しかしこの中に1軒だけ、タイのローカル食堂が含まれていたため、タイで大きな話題になっている。それが1つ星を獲得した「ジェイ・ファイ」(Jay Fai) である。
「ジェイ・ファイ」はバンコクの旧市街にあり、一見すると何の変哲もないローカル食堂である。
(紹介動画・英語)
店名の「ジェイ」とは、中華系のご婦人を意味し、「ファイ」とはホクロを意味する。
日本語にすると「ホクロおばさん」という意味だ。
このニックネームを持つのが、今年72歳になる女性店主である。
トレードマークのゴーグルとスキー帽をかぶり、いまでも自ら中華鍋を振るっている。
(出典:タイラット紙)
店は一見すると普通の食堂なのだが、特筆すべきはその値段の高さだろう。
トムヤムクンは600バーツ~、カニオムレツは800バーツ~と、タイの一般的な食堂の10倍近い値段。
知らないで入ったら気絶しそうである。
タイのSNSではかつて、「ジェイ・ファイの値段は高すぎる!」と話題になったことがある。
これに対して女性店主は、美味しいソースや調味料は海外から輸入しており、ボッタクっているわけではない、と反論している。
実際、料理には新鮮な魚介類が大量に使われていて、それなりのコストはかかっているように見える。
さて、そんな「ジェイ・ファイ」がミシュランの1つ星を獲得したあとで、さまざまな騒動が持ち上がっている。
(AFPニュースの動画・英語)
上の動画で女性店主は、(ミシュランに掲載されて)良かったことは、お客さんがすこし増えたこと、悪かったことは、税務署員が10人も来て収入を監視されるようになったこと、と話している。
動画ではお客さんが「少し」増えたと言っているが、実際には少しどころではなく、タイ国内外から大勢のお客さんが押し寄せ、2時間待ちもあたりまえという状態である。
また、タイの地元紙の記事では、女性店主が星を返上したがっていると報じて、これも大きな話題になった。
店主が星を返上したいと言った理由は、こういった多忙な生活はやめて、以前と同じ普通の食堂に戻りたい、ということだろう。
ただし、女性店主の子供は、星の返上は事実ではないと否定している。
行列の絶えない有名店になった「ジェイ・ファイ」。並ぶお客さんも大変だが、その料理を作る方も大変だ。72歳の名物店主が過労で倒れないことを祈るばかりである。
なお、2017年末に「ジェイ・ファイ」を訪れた人の話によると、現在は完全予約制で運営しているそうである。
完全予約制のタイ食堂というのも珍しいが、店主の負担が少しでも軽くなるなら、それもアリだと思う。
タイの名物食堂として、これからも長く続いてほしいものだ。