
タイで働き始めた駐在員・現地採用の方から、「銀行の窓口で貯蓄型の生命保険や年金保険をすすめられたけれど、投資として買っていいものか」というご相談を受けます。窓口では「節税枠を埋めましょう」「実質年利5%以上です」と提案されることが多く、パンフレットの数字だけ見ると悪くない話に思えます。
僕自身、タイに来た当初は同じように節税枠のことをよく理解しないまま貯蓄型の保険に入り、あとで額面の利回りを計算し直して「思ったより低いな」と感じたクチです。この記事では、そのときの経験を踏まえて、タイの生命保険・年金保険は「投資」として賢いのかという問いに、2026年時点の税制と実利回りから正面から答えていきます。
先に結論を書きます。額面のIRRは年2〜3%と平凡ですが、所得控除枠を使い切ると節税分を上乗せしたトータル利回りが5〜6%台に届く商品もあり、限度額に達していない高所得層にとっては「利回りゼロの現金を寝かせるより明らかにマシ」な商品群です。ただし、①契約期間10年以上・55歳以降給付という長期拘束、②中途解約すると節税分の返還+月1.5%の追徴、③受取はタイ国内口座のみ、④バーツ建てでの円転リスク、という4つの落とし穴があります。RMF/SSF/Thai ESGとの合算枠50万バーツをどう配分するかを踏まえて総合判断すべき商品、というのが2026年時点の位置づけです。
なお、この記事は旧記事「生命保険・年金保険の利回りを計算する方法」「タイの生命保険の本当の年利回りは何%なのか?」「【節税】タイの年金保険」の3本を統合して再構成したものです。旧記事にあった「IRRで比較する」という考え方はここに引き継ぎつつ、2026年時点の制度・商品ラインナップ・出口実務までまとめ直しています。
目次
1. タイの生命保険・年金保険の全体像
まず全体の見取り図です。タイで日本人が節税目的で入る保険は、大きく貯蓄型(Endowment)と年金型(Annuity)の2系統で、これに終身型(Whole Life)と、投資性の強いユニットリンクが並びます。純粋な定期型(Term)は節税控除の対象外なのでこの記事の主役ではありません。
主要販社と代表商品
2025〜2026年時点でタイ国内の日本人が窓口・代理店経由で買える主要販社は次のあたりです。
- AIA Thailand:AIA Endowment 15/25 Non-Par、AIA 15Pay25、AIA 20Pay。外資最大手、ノンパー中心で生存給付金型が主軸
- Thai Life Insurance:Endowment・Whole Life・Term・Annuity・ユニットリンクをフルカバーする内資最大手
- Krungthai-AXA Life:iWealthy(ユニットリンク)、iRetire 5/iRetire 1、Bumnan Smart 95、RetireReady85-6。銀行系(KTB窓口網)
- Prudential Thailand:エージェント経由中心、公開商品情報は限定的
- SCB Life(FWD統合系列):mDesign(2025年ローンチのユニットリンク)
- Muang Thai Life:Perfect Saving 11/5、Muang Thai 9901(一時払・99歳まで年12%給付)、Bamnan Ruk 85/5。年金型の商品ラインが分厚い
- Allianz Ayudhya:貯蓄型・年金型フルライン、独系。医療保障とセット売りが多い
商品タイプの整理
節税で使えるのはおおむね次のとおりです。
- Endowment(貯蓄型 / สะสมทรัพย์):満期一括受取+期中の生存給付金クーポン。控除対象の中心。AIA 15/25 は「15年払込・25年保障、契約2〜24年度末に初回保険金額の1%を毎年生存給付金として受取+満期一括」という典型構造
- Annuity(年金型 / บำนาญ):55歳以降に年金給付。年金保険料控除(別枠20万THB)を使うには、契約10年以上かつ55歳以降給付が必須
- Whole Life(終身型):死亡保障がベース。解約返戻金があり、控除対象になり得る
- ユニットリンク(iWealthy、mDesign 等):保険料の一部を投資信託に振り分ける。IRRは運用成績次第で、控除は保険部分のみ対象
一時払い vs 分割払い
iRetire 1、Muang Thai 9901 のような一時払い商品は、その年の課税所得が跳ね上がったタイミングで枠を消費する使い方が主流です。一方、iRetire 5、AIA 15/25 のような5〜15年の分割払い商品は、毎年の控除枠を安定的に消化できるので、給与所得者のメイン運用に向いています。
バーツ建て vs 外貨建て
タイ販社の商品は基本的にバーツ建て一択です。ドル建て・円建ての貯蓄型生命保険は、香港・シンガポール籍の商品を代理店経由で契約する形になります。ただしその場合はタイの控除枠が使えないので、この記事はバーツ建て前提で話を進めます。
2. 節税効果の枠組み(2026年)
節税の話が保険選びの核心なので、2026年時点の控除枠を先に整理します。前提として、タイの累進課税と控除枠を組み合わせて「その年に取り戻せる税額」を先に確定させるのがこの手の商品の考え方です。
生命保険料控除
- 上限:年間 10万バーツ(本人分のみ、健康保険料と合算)
- 契約期間 10年以上、タイ国内の保険会社と契約
- 途中返戻金が年払保険料の 20%以下 でなければ対象外(実質「貯蓄型」限定)
- 配偶者が無収入の場合は追加 1万バーツ
- 健康保険料は本人分 2万5,000B、両親分 1万5,000B(10万Bの内数)
(出典:タイ歳入局 rd.go.th/60058.html、PwC Tax Summaries、歳入局 Guide to Allowance PDF)
年金保険料控除(別枠)
- 上限:課税所得の15%かつ20万バーツ
- 生命保険料控除の10万バーツ枠を使わない場合は、年金保険側で最大30万バーツまで振替可能(15%上限は変わらず)
- 10年以上契約かつ 55歳以降 の年金給付が要件
リタイヤ系合算上限:年50万バーツ
年金保険+RMF+SSF+PVD(Provident Fund)+国家貯蓄基金 の合計が年50万バーツで頭打ちです。個別上限は次のとおりです。
- 年金保険:20万B(15%以内)
- RMF:所得の30%かつ50万B
- SSF:所得の30%かつ20万B
- Thai ESG:所得の30%かつ30万B(合算50万Bの外枠)
- PVD:所得の15%
節税枠をフル活用したい層は、「年金保険+RMF+SSFで50万Bを使い切り、さらに Thai ESGで追加30万B」の二段構えが2026年時点の定番形です。
累進課税率と実効節税率
節税額は「上のブラケットから順に削れる」ため、課税所得帯ぎりぎりの人ほど実効節税率が高くなります。
- 0〜15万B:税率0%(節税額0B)
- 15〜30万B:5%(20万B投入で1万B)
- 30〜50万B:10%(同2万B)
- 50〜75万B:15%(同3万B)
- 75〜100万B:20%(同4万B)
- 100〜200万B:25%(同5万B)
- 200〜500万B:30%(同6万B)
- 500万B〜:35%(同7万B)
給与所得120〜180万Bクラスの日系駐在員は税率20〜25%帯で、年金保険20万B投入で約4〜5万B(保険料の20〜25%)が即時リターンになります。
タイの所得税の全体像は、以前まとめた記事に整理してあります。合わせてご覧ください。
3. 実利回りの計算——額面IRR 2〜3%、節税後 5〜6%
節税枠の話が終わったので、次は実利回り(IRR)の話です。ここが旧記事の主戦場でした。
販売側の数字テクニックに注意
タイの積立型保険は、パンフレットに「満期返戻率120%」「毎年1%クーポン」「実質年利8%」のような表面的な数字だけを載せることが多いです。しかし、
- 保険料は数年〜十数年にわたって払い込む(時間価値がある)
- 手数料・付加保険料・死亡保障コストが差し引かれている
- 生存給付金クーポンが「保険金額の何%」であって「払込保険料の何%」ではない
ため、払込〜受取の全キャッシュフローで割引率を求めたIRR(内部収益率)で比較しないと実態が見えません。旧記事でも「1年目は10万Bに対して8,000Bもらえるので確かに8%だが、6年払い込んで残高60万Bになってからも同じ8,000Bしかもらえない」という数字トリックを紹介していました。この考え方は今でも変わりません。
IRRはエクセルの=IRR(範囲)関数で簡単に求められます。契約書のキャッシュフロー表を「支払は-、受取は+」で並べて、最下段にIRR関数を入れるだけです。
代表商品のIRRレンジ(節税なしベース)
タイの日系代理店(KSライフ、EMIDAS、ワイズデジタル)や TISCO Insure、doctorsplanner 等のIRR試算を横断すると、おおむね次の相場感です。
- 短期積立型(5〜10年満期):年1.5〜2.5%、満期一括
- 中期貯蓄型(15/25等):年2.0〜3.0%、15年払込・25年保障
- 年金型(iRetire 5等):年2.0〜3.5%、5年払込・25年給付
- 一時払い年金(iRetire 1、9901):年2.5〜4.0%、単発払・長期給付
- ユニットリンク:運用次第(マイナスから+8%程度)
「積立型生命保険のIRRは年2〜3%」が2026年時点の一般常識レンジです。額面クーポンが4〜5%に見える商品でも、払込全額に対する実質は2〜3%に落ちます。
節税分を上乗せした「節税後利回り」
節税額 T を保険料払込 P の中に「初年度に戻ってくる追加キャッシュ」として組み込み、IRRを再計算します。ざっくりの近似で、
- 課税所得帯 20% × 年金保険 20万B → 節税額 4万B
- 実質払込 20万B − 4万B = 16万B(初年度キャッシュベース)
- 満期受取は同じ
とすると、IRRが名目 2.5% でも節税後IRRは5〜6%台に押し上がる商品が実在します。旧記事の例では、額面利回り1.88%の6年払込10年満期の貯蓄保険が、20%節税を織り込むと6.08%になっていました。
ただしこれは「節税枠が余っている人」限定の話です。すでにPVD・RMF・SSFで50万Bを使い切っていて、年金保険を追加しても節税分ゼロ、という人には額面IRR 2〜3% がすべて、ということになります。
タイ10年国債・定期預金金利との比較
2026年7月時点のベンチマークです。
- タイ10年国債利回り:1.97%(2026-07-08、Trading Economics)
- タイ主要銀行の12ヶ月定期預金金利:1.2〜1.6%レンジ
BOT(タイ中銀)は緩和的姿勢で、市場金利は2%を割る低金利環境です。積立保険IRR 2〜3% は「10年国債よりわずかに上」の水準で、節税枠を活かせるかどうかで投資として意味を持つかが分かれるという位置づけです。節税なし・純粋な利回り比較なら、国債・定期預金でよいわけです。
4. 販社・商品別の相場感
主要商品のスペックを、公表情報と代理店試算の範囲で整理します。IRRの具体数値は保険会社公式には掲載されないことが多いので、契約前に代理店に「節税なし・節税ありの両方のIRR試算」をお願いするのが実務ベストプラクティスです。
AIA Endowment 15/25 (Non-Par)
15年払込・25年保障、加入15日〜70歳。契約2〜24年度末に初回保険金額の1%を毎年生存給付金として受取(合計23年で約23%)+満期一括。60歳未満で全永久障害の場合は以後保険料払込免除。ノンパー(配当なし)なので受取キャッシュフローは契約時に確定します。IRRは代理店比較サイトで節税なし2%前後、節税込み4〜5%台の試算が典型です。
Krungthai-AXA iRetire 5/iRetire 1
iRetire 5 は25〜50歳加入、5年払込。60歳から年20%(月1.68%)×25年の年金給付、死亡保障は74歳まで。年金保険料控除20万Bの対象です。iRetire 1 は25〜50歳加入の一時払いで、年5%×25年の給付。銀行系(KTB窓口網)で提案されやすい商品です。
Muang Thai 9901(一時払・99歳給付)
55〜70歳加入、99歳まで毎年12%の年金給付。長寿リスクヘッジ性が高いのが特徴で、退職金の一括投入先として提案されることが多い商品です。IRRは受取期間が長いので、80代半ばまで生きて初めてプラス圏に入る計算になります。
Muang Thai Perfect Saving 11/5、Bamnan Ruk 85/5
Perfect Saving 11/5 は5年払・11年満期で、満期520%または累計保険料の101%のいずれか大きい方。Bamnan Ruk 85/5 は5年払・85歳給付終了型で、退職後の長期給付を狙う商品です。
ユニットリンク(iWealthy、mDesign)
保険料の一部を投資信託に振り分けます。運用型なので控除対象は保険部分のみ、投資部分は対象外です。IRRは運用成績次第で、株式型のファンドを組み込めば長期リターンは高くなり得ますが、その分ボラティリティも高くなります。「保険で運用する」よりも、保険と投資は分けて考える方がわかりやすい、というのが2026年時点の一般的な整理です。
オンライン契約 vs エージェント経由
FWD Thailand、SCB mDesign、一部の AIA 商品はオンライン申込可ですが、節税書類(หนังสือรับรอง / Tax Certificate)の取得や説明書類の解読は日本人には難易度が高く、実質的には日系代理店経由が現実的です。代理店手数料は保険料に組み込み済みなので、オンラインと同額です。代理店経由でも保険料は上がらない(IRRは変わらない)点は覚えておいて損はありません。
5. 「投資として賢いか」の判定
3層に分けて評価します。
節税分だけを見れば「明確にプラス」
課税所得帯 20〜25% の人が年金保険 20万B を購入すれば、その年に約4〜5万B(保険料の20〜25%)が即時リターンとして戻ってきます。節税分は「その年に確定するプラスリターン」で、市場変動リスクなしです。節税枠がまだ余っている層にとって、節税分だけで年金保険の元は取れるという結論になります。
純投資リターンは投資信託より劣る
額面IRR 2〜3% は、タイの投資信託(SET Index連動RMFで長期年5〜7%、Thai ESGで同レンジ)と比べると明確に劣ります。「保険で運用する」という発想単独では、投資信託に負けます。保険は保険(+節税)、投資は投資信託で明確に分けるのが2026年時点の合理的な考え方です。
保険としての価値は別建てで評価
タイの生命保険は「死亡保険金による家族への即時流動性」「受取人固有の財産としての承継(相続手続きを経ずに指定受取人に渡る)」という保険機能そのものにも価値があります。タイ長期在住で家族への資金移転ニーズがある層には、この保険機能を投資と混同せず切り出して評価するのが筋です。「投資リターンでは負けるが、保険としての機能で買う」なら合理的、という整理です。
タイ在住継続 vs 途中で本帰国する場合
ここが2026年版でいちばん強調したい点です。
- タイ在住継続:控除枠を毎年使い続けられる。満期給付をタイ国内で受け取れる。保険としての合理性がフル発揮
- 途中で本帰国:以下の問題が発生する
- タイでの課税所得がゼロになれば節税メリットもゼロ
- 満期給付をタイ口座で受け取り、その後円転する必要がある(為替リスク)
- 中途解約すると「過去に受けた節税分を返還+月1.5%の追徴」(次節で解説)
結論としては、タイ在住継続がおおむね確実な層=節税分を使い切れるので合理的、途中帰国リスクが高い層=節税枠を保険で埋めるのは避け、RMF/SSF(帰国後も保有継続可)に寄せる方が安全、という判断になります。RMF・SSFの出口設計は、姉妹記事にまとめたので合わせてご覧ください。
→ タイのRMF/SSF/LTF出口戦略【2026年版】——Thai ESG終了後、いつ・どう解約するか
6. 出口の実務
契約から満期・解約までの実務です。長期契約の商品なので、入口の節税効果と同じくらい、出口の設計が最終リターンに効いてきます。
満期時のバーツ受取と円転タイミング
満期給付・年金給付はタイ国内の銀行口座に振込されます。タイ口座から日本へ送金する場合は、Wiseや銀行送金で円転します。分割払いの年金(iRetire 5 の25年給付など)は為替タイミングを平準化しやすいのに対し、単発一括受取の endowment は「その年の為替」で確定するのでタイミングリスクが高くなります。
本帰国後もタイ口座を残せるかは、こちらの記事にまとめました。
→ タイの銀行口座を維持したまま日本へ本帰国する方法【2026年版】
途中解約時の解約返戻率
タイの積立型生命保険の解約返戻率は「初年度〜数年は極端に低い」のが特徴です。商品ごとに違いますが、おおまかなレンジは次のとおりです。
- 1年目:払込保険料の0〜10%
- 2〜3年目:20〜40%
- 5年目:50〜70%
- 7年目:70〜85%
- 10年目:90〜100%
- 15年目:100〜115%
7年目までに解約すると元本割れが一般的です。満期まで保有前提の商品と割り切るのが基本です。
途中解約時の控除返還+月1.5%追徴
これが2026年版でいちばん盲点になりやすいところです。タイ歳入局のルールでは、途中解約すると過去に受けた控除が遡って否認されます。具体的には、
- 生命保険料控除:契約が10年未満で終了した場合、控除全額を返還
- 年金保険料控除:55歳前解約・給付要件未達の場合、控除全額を返還
- 追加:月1.5%の追徴金(RMF準拠、歳入局 Guide to Allowance PDF Item 10)
月1.5%×12=年18%相当の重加算です。3年分の節税5万B×3年=15万Bを返還する場面で、追徴が数万バーツ乗るケースは珍しくありません。「節税分だけで元が取れる」という説明は、この追徴を含めて考えると崩れるので、途中解約リスクを見込む場合は最初から入らないのが安全策です。
本帰国後の継続保有・受取・解約
本帰国したあとの取扱いは3パターンに整理できます。
- 継続保有:保険料払込を続けられれば契約継続可(タイ口座からの自動引落 or 海外送金で保険料払込)。ただし帰国後はタイでの課税所得がなくなるので節税メリットは消える
- 満期受取:タイ口座への振込は継続可。ただし新規口座開設は非居住者だと難易度が高いので、在住中に開設した口座を維持しておくのが必須
- 中途解約:返戻率が低い+節税分の返還・追徴。原則として避けたい
新規契約・追加契約は日本居住者になると原則不可です(保険会社の販売免許はタイ国内向け)。通知住所は日本住所に変更できるので、郵送物・電子通知は帰国後も受け取れます。
日本側の税務
タイの保険から受け取った満期金・年金は、受取時点で日本居住者だった場合、日本の所得税課税対象になります。所得区分は次のとおりです。
- 満期一括受取:一時所得((受取額 − 払込保険料 − 特別控除50万円)× 1/2 が課税所得)
- 年金として分割受取:雑所得(受取額 − 対応する払込保険料)
- タイ側で源泉徴収なしが一般的なので、日本側で全額課税になる(外国税額控除はほぼ効かない)
受取タイミングをタイ居住のうちに終わらせられる商品設計を選ぶのが節税上有利、というのが2026年時点の一般的な考え方です。長期の年金型を選ぶ場合は、この日本側課税の負担が積み上がる点も織り込んでおいてください。
7. 詰みパターン5点
実務で見かける失敗パターンを5つ挙げておきます。
節税枠埋めのための塩漬け化
節税枠が使えるうちはいいのですが、途中で税率が下がる・課税所得がゼロになると節税分が消え、残るのは IRR 2〜3% の商品だけになります。「節税込みで5〜6%」から「純粋な2〜3%」に一気に落ちるので、加入時に「10年後・15年後の自分の課税所得はどうなっていそうか」を先に考えるのが大事です。
中途解約で控除返還+追徴
6節で書いたとおりです。途中解約は節税分を吐き出したうえに月1.5%の追徴が乗るので、加入前に「解約せずに満期まで持てるか」を自問してください。転勤・帰国で3年以内に解約する可能性が5割を超えるなら、そもそも入らない方がリスクは低くなります。
バーツ建てのまま帰国、円高でリターン目減り
保険は満期・年金給付までバーツ建てで固定されます。契約から満期までの15〜25年で円高が10〜20%進むと、IRRが実質1〜2ポイント削られます。長期円建て試算で「タイの積立保険は円建て換算するとほぼ元本」に着地するケースも珍しくないので、「バーツで受け取って円転する」前提はしっかり織り込んでおきたいところです。
約款の英語版・タイ語版の齟齬で想定と違う商品を契約
タイの保険約款はタイ語が原文、英語版はサマリーのケースが多いです。特にユニットリンクは「保険料の何%が保険部分、何%が投資部分」の区分が複雑で、日本人向け解説がある日系代理店経由でないと理解が難しいのが実態です。契約書の日本語訳付き説明を確保する、または日本語対応の代理店を挟むのが安全策です。
タイ語のみのクレーム対応、契約後のトラブル交渉困難
保険金請求・クレーム・受益者変更などの手続きは、タイ語書類・タイ語窓口対応が基本です。日本人単独で対応するのは難しく、代理店との継続的な関係が事実上必須になります。代理店が廃業した場合の引継ぎ手順は、契約時に確認しておくと安心です。
8. タイの生命/年金保険 vs RMF/SSF/Thai ESG
同じ10万バーツを1年間投入した場合の比較(課税所得帯20%想定)です。
- 節税額(20%帯):どれも一律 2万B
- 額面期待リターン:年金保険 年2〜3%、RMF 年5〜7%(株式型)、SSF 年5〜7%、Thai ESG 年5〜7%
- 流動性:年金保険は55歳まで拘束+中途解約で返戻低+追徴、RMFは55歳+5年保有、SSFは10年保有、Thai ESGは5年保有
- 元本リスク:年金保険は低(保険会社倒産リスクのみ)、RMF/SSFは中〜高(運用商品次第)、Thai ESGは中(タイESG銘柄)
- 保険機能(死亡保障):年金保険のみあり、他はなし
- 50万B合算枠:年金保険・RMF・SSFはYes、Thai ESGは別枠
- 個別上限:年金保険 20万B、RMF 50万B(30%以内)、SSF 20万B(30%以内)、Thai ESG 30万B(30%以内)
この比較を踏まえた含意は次のとおりです。
- リターン重視:Thai ESG → RMF/SSF が優位。年金保険は劣る
- リスク回避+節税:年金保険が最も安定(元本保証性が高い)
- 保険機能を投資と兼ねたい:年金保険 or Whole Life のみが該当
- バランス配分の一部として保険を持つ意味:ポートフォリオのキャッシュ相当部分(10〜20%)を、単に定期預金で1.5%回すより、年金保険で節税込み5%相当にする方が合理的
キャッシュ相当の中の保守的な節税運用が生命保険・年金保険の適所、というのが2026年時点の落としどころです。RMF/SSFの出口戦略は姉妹記事にまとめました。
→ タイのRMF/SSF/LTF出口戦略【2026年版】——Thai ESG終了後、いつ・どう解約するか
資産配分そのものの考え方は、以前まとめた記事に整理してあります。合わせてご覧ください。
→ 理想のアセットアロケーション——駐在員のポートフォリオ構築
9. 選び方フローチャート
最後に「自分は買うべきか」の判断を、フローチャートにまとめておきます。
- Q1. タイに今後10年以上住む予定はあるか?
- No(3〜5年以内に本帰国見込み)→ 生命保険・年金保険は避ける。RMF/SSF/Thai ESG に集中(帰国後も保有継続可)
- Yes(長期タイ在住 or 永住)→ Q2へ
- Q2. 課税所得はいくらか?
- 50万B以下(税率10%以下)→ 節税メリット薄い。保険は「保険機能」目的だけで判断(医療保険・死亡保障で必要な分だけ)
- 50〜200万B(税率15〜25%)→ Q3へ
- 200万B超(税率30〜35%)→ 全枠フル活用が合理的。年金保険20万+RMF50万+Thai ESG30万+保険機能で貯蓄型追加検討
- Q3. 既にRMF/SSF/PVDで50万B枠を使っているか?
- Yes → 追加はThai ESG 30万枠 or 課税口座で投資信託
- No → 年金保険を優先枠として活用(リターン重視ならRMFに寄せる、安定重視なら年金保険+RMF/SSFの併用)
補足フィルター
- 既往症あり:貯蓄型はほぼ問題なく加入可(医療審査が緩い)。医療特約は謝絶リスクあり
- 投資経験なし・怖い:年金保険+SSFの組み合わせが心理的にラク
- 投資経験あり・攻めたい:Thai ESG+RMF(Global Equity 系)で50万B枠を埋め、保険は最小限
まとめ
長くなったので要点を整理します。
- タイの生命保険・年金保険は額面IRR年2〜3%と平凡だが、節税枠を使い切れれば節税後で5〜6%台に届く
- 2026年の節税枠は生命保険料控除10万B、年金保険料控除20万B、リタイヤ系合算50万B、Thai ESG別枠30万B
- 「投資として賢いか」は3層で判断:節税分=プラス/純投資リターン=劣る/保険機能=別建てで評価
- 出口の落とし穴は中途解約時の控除返還+月1.5%追徴とバーツ建て円転リスク
- タイ長期在住継続がおおむね確実な層にのみ合理性がある商品群。3〜5年以内に本帰国見込みならRMF/SSFに寄せる方が安全
- キャッシュ相当のポートフォリオ部分を、定期預金1.5%より節税込み5%相当で回す、というのが2026年時点の適所
節税枠の全体像、RMF/SSFの出口設計、本帰国全体のお金の流れは、それぞれ別記事にまとめました。合わせてご覧ください。
→ タイの所得税——駐在員・現地採用向けの節税枠まとめ
→ タイのRMF/SSF/LTF出口戦略【2026年版】——Thai ESG終了後、いつ・どう解約するか
→ タイから日本へ本帰国する前にやることリスト【お金編・2026年版】
年金一時金の受給口座(タイ/日本)や給付期間の話は、こちらの記事に整理しています。生命保険・年金保険の受取設計と合わせて考えると全体像がスッキリします。
→ タイの老齢年金 日本人も55歳からもらえます【完全解説】
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- タイの老齢年金 日本人も55歳からもらえます【完全解説】
※この記事は2026年7月時点の情報です。タイの税制・保険各社の商品ラインナップ・日本側の税務は変わることがあります。個別の判断は必ず税理士・ファイナンシャルプランナー等の専門家にご確認ください。

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