
タイ在住の日本人と話していると、「一時帰国のときに日本の病院で診てもらいたいけど、住民票を抜いていて保険証がないから無理」と思い込んでいる方が結構います。
結論から言うと、保険証がなくても日本の病院にはかかれます。全額自費(自由診療)にはなりますが、実はここに面白い逆転現象があって、単発の検査なら、日本で全額自費を払ってもタイの私立病院より安いことが多いんです。タイの医療費が上がり続けた結果、「検査は一時帰国のついでに日本で」が経済合理的な選択になってきました。
僕はタイに住んで25年になります。この記事では、2026年7月時点の公式情報と公表価格だけを使って、一時帰国中の医療の使い方を整理します。
まず結論
- 保険証がなくても日本の病院にはかかれる。全額自費(自由診療)になるだけ
- 風邪程度の外来なら自費でも数千円。胃カメラや大腸カメラなどの単発検査は、タイの私立病院の3分の1〜4分の1で済むことが多い
- 「一時帰国のあいだだけ住民票を戻して国保に入る」は制度上できない(1年未満の滞在予定では転入届自体が受理されない)
- 住民票を日本に残している人は事情が別。紙の保険証は2025年12月で失効しているので、マイナ保険証か資格確認書の確認を
保険証なしでも、日本の病院にはかかれる
住民票を抜いて海外転出すると、日本の国民健康保険からは外れます。保険証(今はマイナ保険証や資格確認書)がないので、病院の窓口では保険診療が使えず、全額自己負担の「自由診療」という扱いになります。受付で「海外在住で日本の健康保険に入っていません。自費でお願いします」と伝えれば、それで普通に診てもらえます。
費用の決まり方は病院ごとに違います。保険診療は全国一律で「診療報酬点数×10円」の3割負担ですが、自由診療では単価を医療機関が自由に決められます。実際には、保険点数×10円で計算して消費税を上乗せする運用のクリニックが多い一方、独自に高めの単価を設定している病院もあるので、心配なら受診前に電話で「保険証なしの自費だといくらくらいか」を聞いてしまうのが確実です。
目安として、風邪程度の外来(初診+簡単な検査・処方)なら、保険点数ベースの10割計算で3,000〜4,000円程度に収まることが多いようです。3割負担に慣れた感覚だと「3倍かかる」わけですが、絶対額で見ればその程度です。
ひとつ注意があって、紹介状なしで200床以上の大病院に行くと、自費とは別に初診7,000円以上(歯科は5,000円以上)の特別料金がかかる制度があります。一時帰国での飛び込み受診は、まず街のクリニックから、が基本です。
それでも、タイの私立病院より安いことが多い
「全額自費なんて高いでしょう」と思うかもしれません。ところが、タイの私立病院の公表価格と並べてみると、印象が変わると思います。バムルンラード病院が公表している検査パッケージ価格と、日本の病院が公表している自費料金の実例です(1バーツ≒4.6円、2026年7月のレート感でざっくり換算します)。
- 胃内視鏡(胃カメラ): バムルンラード 19,900バーツ(約9万円) / 日本の自由診療の実例 20,000円(西宮敬愛会病院の公表額。相場としても1〜3万円程度)
- 大腸内視鏡: バムルンラード 27,900バーツ(約13万円) / 虎の門病院の人間ドックオプション 29,700円
- 胃+大腸のセット: バムルンラード 42,900バーツ(約20万円) / 日本では上の2つを足しても5万円前後
つまり単発の検査は、日本で全額自費を払ってもタイの私立病院の3分の1〜4分の1。バーツ高円安が進んだこの数年で、差はさらに開きました。「日本に帰って自費で全部払っても、タイより全然安かった」という話を在住者からたまに聞きますが、公表価格で突き合わせてみると、少なくとも検査については本当です。
ただし、正直に書いておくと「人間ドックまるごと」だと話は変わります。日本の人間ドックは日帰り基本コースで6万〜8万円程度(虎の門病院で60,500円〜、春日クリニックで58,300円)。タイの私立病院の健診パッケージは1万〜3万バーツ(約4.6万〜14万円)で、内容次第ではタイのほうが安いこともあります。「まるごとの健診はタイでも悪くない。単発の検査は日本が明確に安い」と覚えておくと使い分けやすいです。
歯科も一時帰国の定番です。自費のクリーニングは日本の相場で5,000〜15,000円程度。タイでも歯科は比較的安い分野ですが、日本語で細かい相談ができる安心感も含めて、一時帰国に組み込む人が多いです。
持病の薬についても、自由診療で診察を受けたうえで処方してもらうことは可能です。薬代も全額自己負担になるので、長めの処方を希望する場合は日数の上限も含めて、受診先に事前に確認してください。
「一時帰国のあいだだけ住民票を戻して国保」はできない
ここで必ず出てくるのが「帰国中だけ転入届を出して国保に入れば3割負担では?」というアイデアです。これは制度上できません。
住民登録は「生活の本拠」があることが前提なので、生活の拠点が海外にあるままの短期滞在では、そもそも転入届が受理されません。たとえば我孫子市は公式サイトで「生活の拠点が海外にある方が一時帰国(日本に短期滞在)する場合、国民健康保険に加入することはできません」と明言しています。おおむね1年以上日本に住む予定があるかどうかが線引きです。
事実と違う申告をして加入し、短期間で再転出したことが発覚した場合、条例に基づく過料(我孫子市の例では10万円以下)や、使った保険給付分の返還を求められることがあります。ここは素直に、一時帰国は自費、と割り切るのが正解です。
なお、本当に日本へ生活の拠点を移す本帰国なら話は別で、転入日から国保に入れます(保険料は月割り)。その場合の手続き全体は 本帰国のお金のチェックリスト にまとめています。また、そもそも住民票を抜くか抜かないかの判断は 住民票を抜く/抜かないのメリット・デメリット をどうぞ。
住民票を日本に残している人は
住民票を残したまま日タイを行き来している方は、日本の国保(または健保)の被保険者のままなので、一時帰国中も普通に3割負担で受診できます。ただし2つ、最近の変更点があります。
ひとつは保険証そのもの。紙の健康保険証は2025年12月で失効していて、今はマイナ保険証か資格確認書での受診に一本化されています。マイナ保険証の利用登録をしていない人には資格確認書が申請不要で交付されているはずなので、久しぶりの帰国なら、日本の住所に届いているものを確認してください。
もうひとつは高額療養費制度。月々の自己負担の上限額が、2026年8月から段階的に引き上げられる見込みです(2027年8月には所得区分の細分化も予定)。具体的な金額はまだ政令が出ていないので断定できませんが、大きな治療を検討している方は、時期によって負担が変わる可能性を頭に入れておいてください。
タイに戻ってからの治療は「海外療養費」で一部戻ることがある
住民票あり側の人向けにもうひとつ。日本の健康保険に入ったままの人が、タイで急な病気やけがでやむを得ず現地の病院にかかった場合、後から「海外療養費」を申請すると一部が払い戻される制度があります。
ただし過度な期待は禁物です。戻ってくるのは実費ではなく、同じ治療を日本の保険診療で受けた場合の点数で計算し直した額の7割相当まで。タイの私立病院の請求額との差は自己負担のままです。また、治療を目的とした渡航は対象外、申請の時効は支払日の翌日から2年、診療内容明細書や領収明細書(日本語訳付き)が必要、といった条件があります。タイの医療費への備えとしては、やはり民間の医療保険が本線です(タイの医療保険 参照)。
一時帰国の医療の使い方まとめ
- 急ぎでない検査(内視鏡・MRI・ドック系の単発検査)は、一時帰国に合わせて日本で自費が合理的。タイ私立の3分の1〜4分の1で済むことが多い
- 人間ドックまるごとは日タイで価格が拮抗。中身を見て決める
- 受診はまず街のクリニック。予約時に「海外在住・保険証なし・自費」と伝えて概算を聞く
- 住民票の一時的な出し入れで国保、は不可。ペナルティもあるのでやらない
- 住民票ありの人はマイナ保険証・資格確認書を確認。2026年8月から高額療養費の負担上限が上がる見込み
- 3ヶ月以上の契約の海外旅行保険には、一時帰国中の日本での治療を追加保険料なしで補償する特約が自動セットされている商品もあります(損保ジャパンの新・海外旅行保険【off!】など)。タイ出発前に自分の保険の「一時帰国中補償」の有無を確認しておくと、そもそも自費の心配が減ります
なお、住民票を日本に残したまま3ヶ月以内のサイクルで日タイを往復している方は、クレジットカード付帯保険で医療保障を組む方法もあります。クレジットカード付帯保険だけで日本とタイを行き来する方法 にまとめました。
この記事の情報は2026年7月時点のものです。医療機関の料金・制度の内容は変わるので、受診前に必ず各機関の公式情報を確認してください。この記事は費用と制度の話に限った内容で、治療そのものの判断は医師に相談してください。
更新履歴:2026年7月25日公開

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