
先日、タイの年金一時金のご相談をくださった方が、こんなことをおっしゃっていました。
「タイにいた頃は技術の仕事ばかりに集中していて、総務やビザ、社会保険のことにまったく頭が回っていなかった。いまになって後悔しています」
僕はタイに来て25年、本業のかたわらでタイの社会保険の年金一時金の申請サポートを40件以上やってきました。その中で何度も見てきたのが、まさにこのパターンです。在職中なら5分で済んだことが、辞めて日本に帰った途端、数ヶ月がかりの調査になる。あるいは、取り返しがつかなくなる。
働いている間は、ビザも社会保険も税金も、ぜんぶ会社の総務がやってくれます。それ自体はありがたいことなのですが、裏を返すと、自分の権利に関わる情報を自分が何も持っていないということでもあります。
そこでこの記事では、タイで働いている日本人(駐在員も現地採用も)が、在職中に押さえておくべきことを6つにまとめました。どれも今日からできることばかりです。
目次
1. 社会保険番号を控えておく(これが一番大事)
タイの会社で働いていると、毎月の給料から社会保険料(プラカンサンコム)が天引きされています。この社会保険には「老齢給付」があって、55歳になると、払った保険料が一時金として戻ってきます(加入15年以上なら終身年金)。数年勤めた方で数万バーツ、10年勤めた方なら10万バーツを超えるイメージの、ちゃんとしたお金です。
その申請の鍵になるのが社会保険番号です。6で始まる13桁で、給与明細や社会保険カードに載っています。
在職中なら、総務に聞けば一発で分かります。でも退職して10年後に「番号が知りたい」となると、当時のパスポートや会社名が分かる資料を揃えて、社会保険事務所で記録を調査するところから始めることになります。調べる道はあるのですが、手間も時間もかかります。
複数の会社で働いた方には、もうひとつ大事な注意があります。タイでは転職すると会社ごとに別の社会保険番号が発行されているケースが珍しくありません。制度の本来は1人1番号で、入社時に既存の番号を会社に伝えれば継続されるのですが、日本人駐在員はそれを知らないまま新しい会社が新規登録してしまい、結果として番号が分かれてしまうんです。
ですから控えるときは、「会社名と社会保険番号のペア」を、勤めた会社の数だけ。1社目はどの番号、2社目はどの番号、と対応が分かる形で残しておいてください。
年金一時金の制度と金額の目安は、こちらにまとめています。
→ タイの老齢年金 日本人も55歳からもらえます【完全解説】
2. 給与明細は捨てない(スマホで撮っておく)
給与明細は、社会保険料が天引きされていた証拠になります。
とくに役員(取締役)を経験した方は要注意です。タイでは役員は社会保険の被雇用者とみなされず、保険料を納めていないケースがあります。その場合、役員期間分の年金は受け取れません。あとから「あの期間、保険料を払っていたっけ?」を確認する手がかりは、給与明細くらいしかないんです。
紙の明細は、引っ越しと帰国のどさくさで必ず消えます。毎月の給与明細をスマホで撮って、クラウドに放り込んでおく。これだけで将来の自分が助かります。
3. 歴代パスポートの顔写真ページを残す
パスポートは10年(または5年)で切り替わり、そのたびに番号が変わります。タイの社会保険の記録は当時のパスポート番号と紐づいているので、複数回赴任した方や滞在の長い方は、記録の照合に歴代パスポートの番号が効いてきます。
古いパスポートは更新時に返却・処分してしまう方が多いのですが、顔写真ページを撮影してクラウドに残しておくだけで、後々の照合がぐっと楽になります。社会保険だけでなく、タイの銀行や役所関係の古い記録をたどるときにも役に立ちます。
4. 銀行口座は「生かしたまま」帰る
タイの銀行口座は、帰国後も維持できます。そして、維持しておく価値があります。
- 年金一時金をタイの口座で受け取ると、給付まで1〜2ヶ月。日本の口座だと、書類がタイ外務省と在日本タイ大使館を経由するため3〜6ヶ月かかります
- タイに遊びに来たときの決済・送金がそのまま使えます
維持のポイントは2つです。
ひとつはモバイルバンキングを設定しておくこと。残高確認も少額の資金移動も日本からできます。長期間まったく動きのない口座は休眠扱いになったり、KYC(本人確認)の更新を求められたりすることがあるので、ときどきログインして「生きています」の足跡を残しておくのが安心です。
もうひとつが、次の電話番号の話です。タイの銀行のOTP(ワンタイムパスワード)は、タイの電話番号のSMSに飛びます。つまり——電話番号が死ぬと、口座は生きていてもモバイルバンキングが実質使えなくなる。口座と電話番号はセットで生かす必要があるんです。
5. 電話番号はプリペイドに切り替えて維持する(僕は年120バーツ)
タイの電話番号は、思っている以上に「認証インフラ」です。銀行のOTP、PromptPay、LINEやアプリの認証——生活のいろいろなものが、この番号に紐づいています。
しかも、解約や失効で手放した番号は、いずれ他の人に再割当てされます。自分の銀行やアプリに紐づいたままの番号が他人の手に渡る状態は、セキュリティ的にもよろしくありません。
だから帰国前にやっておきたいのが、ポストペイド(月額契約)からプリペイドへの切り替えです。ショップで手続きできます。会社契約の番号だった方は、まず個人名義に変えられるか総務と相談を。
そして維持のコストですが、これが驚くほど安い。AISのプリペイドの場合、チャージを1回すると、金額にかかわらず有効期限が1ヶ月延長されます。延長できるのは最大1年先まで。僕はスマホのアプリ(myAIS)から10バーツずつチャージして番号を維持しています。10バーツ×12回で、年120バーツ(約500円)。缶コーヒー数本分で、タイの番号という認証インフラを守れる計算です。
ひとつだけ注意点があって、AISの規約では有効期限が切れてから7日以内にチャージしないと解約扱いになります。ギリギリを攻めず、残り期限に余裕をもってチャージする習慣にしておくのが安全です。僕はスマホのリマインダーに入れています。
(プリペイドの有効期限ルールはキャリアの規約変更で変わることがあります。切り替え時に最新の条件をご確認ください)
6. 辞めるときは、社会保険の「脱退手続きの完了」を確認する
最後は退職時の話です。会社を辞めると、会社が社会保険事務所に脱退の届出をします。実はこれが済んでいないと、年金一時金の申請ができません(申請しても却下されます)。
通常は総務が粛々と処理してくれますが、まれに手続きが遅れていて、申請に行ったのに受け付けてもらえなかった、というケースがあります。退職のご挨拶のついでに、「社会保険の脱退手続きはいつ完了しますか」と総務に一言確認しておくと確実です。
なお、退職後も39条(任意継続)で社会保険を続ける選択肢がありますが、続け方によっては老齢給付の計算に影響が出る場合があります。年金を意識している方は、継続する前に一度調べてみてください。
社会保険の制度全体(医療・手当・年金)はこちらにまとめています。
まとめ:いまなら5分、あとからだと数ヶ月
6つを並べ直すと、こうなります。
- 社会保険番号を会社名とペアで控える(複数社なら全社分)
- 給与明細をスマホで撮っておく
- 歴代パスポートの顔写真ページを残す
- 銀行口座はモバイルバンキングを設定して生かしたまま
- 電話番号はプリペイドに切り替えて少額チャージで維持
- 退職時は社保脱退手続きの完了を総務に確認
どれも在職中なら簡単なことです。でも辞めてしまうと、総務にはもう聞けない、書類はもう出てこない、番号はもう消えている——そして数年後、「あのとき控えておけば」になります。この記事をここまで読んだ方は、次の給与明細が出たら、まず社会保険番号を控えるところから始めてみてください。
すでに退職された方、番号が分からない方も、道がないわけではありません。当時のパスポートと会社名が分かる資料があれば、記録を調べる方法があります。詳しくはこちらへ。
→ タイの老齢年金 日本人も55歳からもらえます【完全解説】
定年後・退職後もタイと関わり続けたい方は、滞在ビザの選び方もどうぞ。
→ 定年後もタイに住む?日本と行き来する?タイ長期滞在ビザの選び方【2026年版】
※この記事は2026年7月時点の情報です。制度・キャリアの規約は変更されることがあります。

コメント