タイで個人所得税を節税する手段のひとつが、この RMF(退職投資信託)の購入です。
RMF は、SSF や生命保険といった他の節税手段と同じように、購入時に所得控除が受けられます。ただし、自分で貯める退職金という性質があるため、売却できるのは満55歳以降になってからです。このため、若い方には向いていませんが、40代後半以降の方にはおすすめの節税方法です。
LTF(長期投資信託)は2020年を最後に終了しました。LTFの替わりとなる節税手段として、 RMF を検討する方が増えそうです。
RMF に関する Q & A
Q. RMF とは?
A. 「Retirement Mutual Fund」の略で、日本語に訳すと「退職投資信託」です。タイの公的年金制度は貧弱なため、定年に備えて市民が自分で貯蓄ができるようにと、タイ政府が定めた税の優遇制度です。この制度で定められた投資信託を購入すると、購入時と売却時に税の優遇が受けられます。
Q. RMF が通常の投資信託と異なる点は?
A. 3つあります。
- 条件を満たすと、税法上の恩典が受けられる
- RMFは譲渡・質入れできない
- 「分配金なし」の投資信託のみ
Q. RMF を利用する条件は?
A. 4つの条件があります。
- 購入を始めたら、途中で止めてはならない。年1回以上は購入すること
- 購入の最低金額は、年間所得の 3% か 5,000バーツのどちらか少ない方(年収17万バーツ以上なら後者)。購入金額は毎年異なっても良い
- 途中で購入を1年間休んでも良いが、連続2年間休んではならない(1年おきの購入は可)
- 売却は、満55歳かつ投資期間が満5年(購入しなかった年は数えない)になってから。満5年保有したら売却可
Q. RMF で所得控除を受ける条件は?
A. 課税所得の30%まで控除できます(2019年までは15%、2020年から30%に拡大)。ただしSSF、年金保険控除、退職金積立基金(プロビデントファンド)と合算して、年間最大500,000バーツまでです。それを超えた分は控除できず、売却時にキャピタルゲインを所得として申告する必要があります。
Q. RMF の購入時に税金はいくら還付されるの?
A. 2つのケースを考えてみます。
- 所得100万バーツの人が最大限の15万バーツ購入 → 所得税3万バーツ(15万 x 20%)が還付される
- 所得200万バーツの人が最大限の30万バーツ購入 → 所得税7.5万バーツ(30万 x 25%)が還付される
Q. RMF のリスクは?
A. 投資信託ですので、元本は保証されず、下落のリスクがあります。ただし、株式型、債券型、混合型、金投資型などさまざまな RMF がありますので、商品を選べば自分でリスクをコントロールできます。
また、赤字になるのは、投資信託の価値が還付額以上に下落したとき、つまり上記の例で言えば 20~25% 下落したときなので、赤字になる可能性は低いと私は考えています。
なお、販売した銀行や証券会社が倒産しても、投資信託の資産は保全されます。
Q. 注意点は?
A. 5年以上保有し、かつ満55歳になるまでは解約できないので、計画的に購入しましょう。あと、年初の還付申請を忘れると還付されませんのでご注意を。
Q. どこで買えばいい?
A. 銀行、証券会社で購入できます。手軽に買えるのは バンコク銀行、SCB銀行、カシコン銀行、アユタヤ銀行などの大手銀行です。必要な書類は、パスポートと労働許可証です。
Q. 売却益や分配金は課税される?
A. RMFの対象となる投資信託は、「分配金なし」の商品だけですので、分配金への課税はありません。キャピタルゲイン(売却益)は非課税ですが、課税所得の15%を超えて購入した分は、売却時にキャピタルゲインを所得として申告する必要があります。
Q. どの RMF を買えばいい?
A. 各社がさまざまな RMF を販売しています。どの RMF の価格が上がるかはわかりませんので、手数料が一番低いものを選ぶのが投資の基本です。次の項で、おすすめのRMFを紹介しています。
おすすめの RMF
タイの大手銀行(バンコク銀行、SCB銀行、カシコン銀行、アユタヤ銀行)が販売している RMF から、おすすめの RMF を選んでみました。購入する際は、手数料、リスク、過去の実績などを検討すると良いでしょう。
・リスクレベルは、1(低リスク)~8(高リスク)の8段階です。
・RMF 名をクリックすると詳細ページに移動します。
・2020年9月更新の情報です。信託報酬は頻繁に変更されますので、必ず目論見書(Fact Sheet)で確認してください。
債券型の RMF
主にタイの国債や社債で運用する投資信託です。
アユタヤ銀行の KFCASHRMF はタイ国債で運用していて、ほぼ定期預金と考えてよいでしょう。b
運用会社 | 名称 | リスクレベル | 信託報酬 |
---|---|---|---|
アユタヤ | KFCASHRMF | 1 | 年0.26% |
アユタヤ | KFGOVRMF | 4 | 年0.47% |
カシコン | KSFRMF | 4 | 年0.55% |
バンコク | BFRMF | 4 | 年0.49% |
SCB | SCBRM1 | 4 | 年0.68% |
タイ株式型の RMF
主にタイ株式で運用する投資信託です。
数字の100がついているものはタイのSET100指数、50がついているものはタイのSET50指数の連動型です。
運用会社 | 名称 | リスクレベル | 信託報酬 |
---|---|---|---|
アユタヤ | KFS100RMF | 6 | 年0.75% |
カシコン | KS50RMF | 6 | 年0.76% |
SCB | SCBRMS50 | 6 | 年0.65% |
バンコク | BSIRIRMF | 6 | 年1.73% |
2018年くらいまでは手数料率に差があったのですが、現在はどこで購入してもあまり変わりません(ただしバンコク銀行は高い)。
外国株式型の RMF
外国株式で運用する投資信託です。タイ株式だけですと資産配分のバランスが悪くなりますので、全世界や米国株式も入れてバランスを取ると良いでしょう。
運用会社 | 名称 | リスクレベル | 信託報酬 | 内容 |
---|---|---|---|---|
SCB | SCBRMS&P500 | 6 | 年0.9645% | 米国S&P500インデックス連動型 |
アユタヤ | KFGBRANRMF | 6 | 年1.8442% | グローバル・ブランズ・ファンド |
カシコン | KCHANGERMF | 6 | 年1.6626% | ベイリー・ギフォード インパクト投資ファンド |
上記の信託報酬は、タイの銀行の報酬+マスターファンドへの信託報酬の合計になっています。
金の RMF
資産の一部を金で運用したい方向けです。
運用会社 | 名称 | リスクレベル | 信託報酬 | 内容 |
---|---|---|---|---|
バンコク | BGOLDRMF | 8 | 年0.678% | 金 |
アユタヤ | KFGOLDRMF | 8 | 年1.3549% | 金 |
RMF のスイッチング
RMF を中途解約することはできませんが、途中で投資対象を乗り換えることができます。これをスイッチングと言います。スイッチングは、同じ銀行の同じ種類(例:RMF)の投資信託同士でのみ可能です。
スイッチングでは、全額を買い換える必要はなく、任意の金額を他の投資信託に買い換えることができます。そのときに利益が出ていても課税はされません。
実際にスイッチングを少し実験してみたところ、アユタヤ銀行では、KFCASHRMF へのスイッチングはできましたが、KFGBRANRMF へのスイッチングはできませんでした。スイッチング元の制限はないようですが、スイッチング先には選べない投資信託があるようです。
スイッチングの利用方法としては、
- 株価が高値圏内にあると判断し、株式型を利確して安全な債券型に切り替える
- 年齢と共に、一定の割合を株式型から債券型に切り替えてリスクを減らす
といったことが考えられます。
RMF の購入例
例えば、満45歳の誕生日から満54歳の誕生日までの10年間、RMF を毎年10万バーツ購入したとします。
- 45~54歳までの10年間に、計100万バーツを購入
- 節税額は2.5万バーツ/年 x 10年 = 計25万バーツ(税率25%の場合)
- 55歳になったとき、5年以上保有した60万バーツ分を売却できる
- 56~59歳に毎年10万バーツ分を売却できる
55~59歳で売却せずに、例えば60歳で全額売却することも可能です。こうしてみると、55歳でもらえる退職金になっていることがよくわかりますね。
上の例では購入金額=売却金額にしていますが、実際には購入した RMF の値上がりも期待できます。株式型、債券型、混合型、金など、さまざまな RMF がありますので、ハイリスク・ハイリターンを狙う方は株式型を、堅実に増やしたい方は債券型を、その中間を目指す方は株式30%+債券70%を購入するなどして、自分に合ったポートフォリオを組むことができます。
最後になりましたが、投資の判断はご自分で行ってくださいませ。
コメント
昨年よりRMFを購入しています。
RMFは、毎年購入しなければならないという条件を初めて知りました。
55歳までの間に、帰国や、長い期間の失業、リタイアをした場合、大きな問題になりそうです。
どういう問題になるのか、ご存知であれば、ご教示願います。
こちらのウェブサイトによると、条件に違反した場合は、過去5年間にさかのぼって納税する必要があります。購入の最低金額は 5,000バーツですので、何かあっても毎年 5,000バーツは購入したほうがいいですね。インターネット・バンキングの登録をしておけば、日本に帰国してもネットで RMF を購入できます。
RMF には分配金(配当)はありません。売却益は非課税ですが、課税所得の15%を超えて購入した分は、売却時にキャピタルゲインを所得として申告する必要があります。
とありますが、分配金のある商品がないのか、分配金再投資が出来ない様になっているのか?
もしくは配当のある商品がないのか? なぜか自動再投資、受け取りどちらも出来ない?
全部が該当しますか?ちょっと意味が分からないです
長期投資のメリットは「時間」と「お金」の分散、そして配当再投資による複利の力の増強にあると思うのですが
個人的には分配金は必要ないですが、配当再投資が出来ない長期投資は購入したくないですね
タツさん、コメントありがとうございます。
私の書き方が悪かったですね。そもそも「配当」という言葉は投資信託には不適当でした。
『RMFの対象となる投資信託は、「分配金なし」の商品だけです』
と書き直しておきますが、いかがでしょうか。
長期投資のメリットについては仰るとおりです。
お返事ありがとうございます
いちゃもんをつけたみたいになって申し訳ありません
nisizawaさんのおかげで、私はLTF,SSF、SSFXを知り、購入する事が出来ているので感謝しかありません
更に最近またe-classの記事も読ませて頂き、RMFの話が出て来たので復習を兼ねて読み直していたら、今回の疑問が浮かびました
今後も拝見させて頂きますので、頑張って下さい
ありがとうございました
タツさん、イチャモンだなんて、そんなことは全く思っていません。むしろ、ご指摘に感謝しています。また何かお気づきの点がありましたら教えて下さい。
お役に立てたようで嬉しいです。